ゼロトラスト移行は何から始める?「ID統制・アクセス権限見直し」から着手すべき3つのメリット

📌 この記事のポイント
・ゼロトラスト移行は、まず「ID統制・アクセス権限見直し」から着手するのが定石
・つまずかない移行の順序は5つのフェーズで
・ゼロトラストは製品の一括導入で完成するものではない。優先順位をつけた継続改善の取り組み
・中小企業は全部そろえる必要なし。まずID統制と多要素認証だけでも防御力は大きく改善
『ゼロトラストに移行したい。でも、何から手をつければいいのか分からない』
最近、セキュビットに寄せられるご相談のなかで、特に増えているのがこの切実な声です。
クラウドの利用やリモートワークが当たり前となった今、ゼロトラストへの注目は日々高まっています。しかしその一方で、「特定のセキュリティ製品を導入すれば完了するもの」と誤解されているケースも少なくありません。
しかし、ゼロトラストの本質は製品やツールの導入ではなく、これまでのセキュリティに対する「考え方そのものの転換」にあります。
では、自社に最適なゼロトラストへ移行するには、何から始めるべきなのでしょうか?今回のブログでは、移行の核となるポイントや、具体的な進め方について分かりやすくご紹介します。
1.そもそもゼロトラストとは? ―― 「境界で守る」時代の終わり
ゼロトラストを、ひとことで言うと「社内=安全」という前提を排除し、社内外を問わずあらゆるアクセスを「決して信頼せず、必ず検証する」というセキュリティの考え方です。
かつては「社内は安全、社外は危険」という前提で、その境界をファイアウォールなどで守る『境界型防御』が主流でした。
ところが、クラウドサービスの普及やテレワークの定着によって、守るべきデータも働く人の場所も、すべて社内の「境界の外」へとあふれ出しました。社外から直接システムにアクセスすることが当たり前になった今、もはや「境界の内か外か」で線を引く守り方は通用しません。そこで、場所ではなく「誰が・どの端末からアクセスしているか」を都度チェックして許可する、ゼロトラストへのアプローチが不可欠となっています。
用語メモ:境界型防御とゼロトラスト
・境界型防御: 社内と社外の境目を監視して守る。内側に入られると弱い
・ゼロトラスト: 場所を問わず、本人確認する。「IDが新しい境界」とも言われる
2.ゼロトラストへの移行は「ID統制」がポイント
ゼロトラストへの移行に関しては、移行を構成する要素として5つのステップが推奨されています。そしてその最初に取り組むべき要素として「ID統制」が大きなポイントになります。
ID統制が最優先される理由はシンプルです。ゼロトラストの根幹は『誰が、どの端末で、何にアクセスしようとしているか』にあるからです。アクセスのたびに本人を見分けて許可・遮断を判断する以上、その土台となる「ID(誰か)」が整理されていなければ、何も始まりません。
もうひとつ実務的に大きい理由が、順番を間違えると後で苦労するという点です。
ID台帳が散らかったまま先にデバイス対策やネットワーク対策を進めてしまうと、後から『このアクセスは正しい利用者なのか』を判定しきれず、不適切なアクセスを見逃す穴が残ります。最初にID基盤をきれいにしておくことが、後続の対策を効かせる前提条件になるわけです。家を建てるときに基礎を固めてから柱を立てるのと同じ、と考えると分かりやすいかもしれません。
3.ゼロトラスト移行の全体像 ―― 5つのフェーズ
「まずはID統制から」と言っても、いきなり手を動かすわけではありません。移行プロジェクト全体は、おおむね次の5つのフェーズで進みます。「ID統制」の実装は、実際には4番目の『環境構築』フェーズの先頭に位置づけられます。

▲ ゼロトラスト移行プロジェクトの進め方(5フェーズ)
出典:情報処理推進機構(IPA)『ゼロトラスト移行のすゝめ』をもとに作成
| フェーズ | やること | つまずきやすい点 |
|---|---|---|
| ① 現状分析・ありたい姿 | 今の環境と課題を洗い出し、目指す状態を言語化する | 『流行っているから』が目的化してしまい、自社の課題と結びつかない |
| ② グランドデザイン | 必要な対策をマッピングし、ロードマップを描く | 製品選びが先行し、全体像のないツール乱立になる |
| ③ 投資判断 | 費用対効果を見極め、優先順位と予算を決める | あいまいで効果が見えにくいと、経営層の合意が取りにくい |
| ④ 環境構築 | ID統制を起点に、各対策を順に実装する | ID基盤の整理を飛ばし、後工程で手戻りが発生する |
| ⑤ 検証・改善 | 運用しながら効果を測定し、継続的に見直す | スタートがゴールになってしまい、形骸化する |
ここで大切なのは、ゼロトラストに「これで完成」というゴールはないということです。完全移行を一気に目指すのではなく、優先順位をつけて少しずつ前進する継続的な取り組みとして捉えることが、現実的かつ失敗しないポイントになります。
4.最初の山場「ID統制」で具体的に何をするか
移行の出発点である環境構築フェーズでは、具体的に次の5つを進めます。前半の①②③は比較的着手しやすく、効果も実感しやすいので、ここから着手するのがおススメです。
① IDの棚卸し ―― まず「誰が何を持っているか」を把握する
入社・異動・退職にともなうアカウントの増減が仕組み化されていないと、辞めた人や契約の切れた取引先のIDが有効なまま残り、いわゆる『幽霊アカウント』化します。これは攻撃や内部不正の格好の入口です。自部門だけでなく、他部門(人事部など)の手続きの進捗と連携しアカウント制御を必ずセットで動かし、最新の状態に保ちましょう。ここがID統制すべての土台になります。
② 多要素認証 ―― パスワード一枚からの脱却
パスワードに加えて、スマホの確認コードや生体認証など『もうひとつの鍵』を足すのが多要素認証です。米国の大手IT企業が2025年に公表したセキュリティ報告では、フィッシングに強い多要素認証なら、攻撃者が正しいパスワードを握っていても、ID関連の攻撃の99%以上を防げるとされています。費用対効果はきわめて高く、重要システムと社外からのリモート接続に優先的に導入しましょう。
③ 最小権限 ―― 「念のため」の権限を削る
攻撃者はIDをひとつ乗っ取れば、そのIDの権限をそのまま悪用できます。『誰が・何に・どこまでできるか』を一覧化し、権限の範囲を定期的に点検しましょう。とくに強力な権限を持つことになる「管理者権限」は担当者を絞り、日常業務は通常権限で行うなどルール化すれば、いざというときの被害範囲が大きく変わります。
④ 取引先・委託先IDの分離 ―― 連鎖被害を断つ
自社の社員IDを固めても、取引先のIDが野放しでは穴は残ったままです。近年の漏えいでも、委託先を経由した侵入が目立ちます。取引先IDは社員と区画を分け、契約期間に連動した期限付きにして、終了時に遮断する。アクセス範囲は最小限に絞り、監視はむしろ社員以上に厳しく行いましょう。
⑤ ログ統合の準備 ―― 後続フェーズへの橋渡し
ID統制の段階から、誰がいつ何にアクセスしたかのログを残す習慣をつけておくと、移行後半の『ログ収集・分析』フェーズがぐっと楽になります。多くのクラウドサービスには標準のログ機能があるので、まずは機能をオンにして月次で確認するところから始めれば十分です。
5.費用を抑えるコツ
移行のご相談で必ず聞かれるのが、費用です。組織の規模や既存環境に大きく左右されるため一概には言えませんが、押さえておきたいのは、ゼロトラスト製品をすべて買いそろえる必要はないという点です。すでに広く使われている業務用のクラウド基盤には、多要素認証やログ管理、端末管理の機能が標準で含まれていることが多く、それらを活かすだけで最初の数ステップはかなりカバーできます。『不足している部分だけを補う』という発想で進めれば、初期投資を抑えながら着手できます。
6.「何から、どこまで」を一緒に描きます
ここまで読んで、「順序は分かった。でも自社の場合どこから着手して、どこまでやればいいのか」と感じた方もいらっしゃることでしょう。ゼロトラスト移行は『唯一の正解』がないぶん、自社の現状と課題に合わせて順序と落としどころを描くこと自体が、いちばん難しい部分です。
セキュビットでは、流通・保険・自動車販売など幅広い業種で、セキュリティ体制づくりとゼロトラスト移行をご支援してきました。現場で実際に回る仕組みに落とし込むことを重視してご支援しています。
ご支援できること
- 現状分析とロードマップ策定 ―― ありたい姿の言語化から移行計画づくりまで
- ID統制の構築支援 ―― 棚卸し・権限設計・多要素認証の導入を実務レベルで伴走
- 取引先・委託先まで含めたアクセス権限の考え方と整理のご提案
- (必要があれば)自社に合ったツールの推薦・導入支援(過剰投資を避けた現実的な構成)
こんな組織に向いています
・ゼロトラストに興味はあるが、何から始めればいいか分からない
・製品を入れる前に、自社に合った移行の順序と優先順位を整理したい
・現場が止まったり社内からクレームが来るのは避けたい。現場も回しやすい仕組みをつくりたい。
詳細・お問い合わせはこちら: https://secubit.jp/contact
7.よくある質問(Q&A)
Q. 中小企業でもゼロトラスト移行は必要ですか?
A. テレワークやクラウドサービスを使う組織であれば、規模に関係なく検討する価値があります。ただし、全部を導入する必要はなく、まずはID統制と多要素認証という最初の2ステップだけでも防御力は大きく向上します。大きな投資をしなくても、まずはできる範囲から始めたり、進め方で不安や不明なところだけ外部の専門家を活用するなど、費用を抑えながら進めることは十分に可能です。
Q. なぜネットワーク対策ではなく、ID統制から始めるのですか?
A. ゼロトラストの根幹が『誰がアクセスしているか』の確認にあるためです。土台となるIDが整理されていないまま先に進むと、後の工程で正しい利用者かどうかを判定しきれず、結局手戻りしたり穴が残りやすくなります。最初にID基盤を整えることが、後続対策を効かせる前提になります。
Q. 移行でよくある失敗パターンはありますか?
A. 代表的なものとしては目的があいまいなまま『流行っているから』と製品導入が先行し、全体像のないツール乱立に陥るケースです。またID基盤の整理を飛ばして高度な対策から入り、後で手戻りが発生するケースもよくあるケースです。現状分析と順序づけを丁寧に行うことが、遠回りに見えて最短ルートになります。
まとめ ―― 大きく構えず、ID統制の一歩からはじめましょう
ゼロトラスト移行と聞くと、大がかりで難しそうに感じるかもしれません。しかし実際の出発点は、5つのフェーズに沿って「自社のIDをきれいに把握し、多要素認証で守りを固める」という、地に足のついた一歩から進めることです。完璧な完成形を一気に目指すより、優先順位をつけて着実に積み上げる。それがいちばんの近道です。
今日からできる4つのアクション
① 自社の全アカウントを棚卸しし、不要なIDが残っていないか確認する
② 主要システムと社外アクセスに、多要素認証を設定する
③アクセス権限を必要最小限となるよう見直す
④自社に合ったゼロトラスト移行の順序を、専門家に一度相談してみる
セキュビットでは、「何から始めればいいか分からない」という段階からのご相談を歓迎しています。規模・業種・現状に合わせて、過剰投資を避けた現実的な移行プランをご提案します。まずはお気軽にご相談ください。 お問い合わせ・資料請求はこちら
この記事を書いた人

増村 洋二(Yoji Masumura)
株式会社セキュビット 代表取締役。サイバー犯罪対策からITガバナンスまで、20年以上にわたり情報セキュリティの最前線に従事。LINEの情報セキュリティ室マネジャーや楽天グループのサイバー犯罪対策室長兼情報セキュリティ統括室室長、CCCのセキュリティ統括部長などを経て現職。実務者目線と経営的視座を兼ね備えたコンサルティングを展開。