内部不正対策を後回しにしている企業ほど危ない?原因・手口・予防策を徹底解説

📌 この記事のポイント
・「内部不正」はIPA 10大脅威に11年連続ランクイン(2026年版・第7位)
・外部攻撃より発見が遅く、被害が深刻化しやすい
・技術・管理・人の3層で対策を組み合わせることが最重要
情報漏えいの主な原因は外部攻撃によるもの——果たしてそうでしょうか。実際には、社内の従業員や元社員による「内部不正」が深刻な脅威となっています。IPA(独立行政法人情報処理推進機構)10大脅威に11年連続してランクインするなど、内部不正は組織向け脅威ランキングの上位に居座り続けており、会社の規模を問わずすぐに取り組むべき課題です。この記事では、難しい専門用語を極力使わず、「内部不正とは何か」「なぜ危険か」「今すぐできる対策は何か」をわかりやすく解説します。
1.内部不正とは何か?
内部不正とは、現在または過去に組織に属した人物(従業員、業務委託先、退職者など)が、組織の情報資産や設備を悪意を持って不正に利用する行為を指します。単なるうっかりミスは「内部不正」とは区別されますが、両者が合わさって被害が拡大することも珍しくありません。
外部攻撃と内部不正の違い
| 比較項目 | 外部攻撃 | 内部不正(従業員・関係者) |
|---|---|---|
| 発覚の早さ | 比較的発覚しやすい | 遅い(気づきにくい) |
| アクセス権限 | 権限を突破する必要がある | 既に正規のアクセス権を持っている |
| 証拠の残りにくさ | 不正な痕跡が残りやすい | 正規の操作に見えるため痕跡が薄い |
内部不正は「発覚しにくい」という点が最大の怖さです。正規の権限を持って行動するため、システム上は「通常の業務操作」と区別がつかないことが多いのです。
2.古いのに新しい、内部不正という消えない脅威
IPA「情報セキュリティ10大脅威 2026」では、「内部不正による情報漏えい等の被害」が11年連続でランクインしています。
内部不正が継続的な脅威となる背景として、次の3点が挙げられます。
- テレワーク・リモートワークの一般化による監視の低下
- 転職や副業が当たり前になった時代における情報の持ち出し意識の変化
- クラウドやUSBなど、情報を簡単に持ち出せる環境
近年では、生命保険会社や不動産会社の元社員が、退職時に顧客情報を持ち出し転職先で営業活動に使用したケースなど世間を騒がせました。業種を問わず、様々な手口で事案が相次いで発覚しています。
3.内部不正の主な手口を知る
内部不正の手口は多岐にわたります。特に多いのが「情報の不正持ち出し」です。
具体的な手口は以下のとおりです。
| 手口の種類 | 具体的な行為の例 |
|---|---|
| 情報の持ち出し | 私用メール・クラウドストレージ・スマホカメラによる複写 |
| アカウント悪用 | 他者のID/パスワードを使った不正ログイン、退職者アカウントの継続利用 |
| 情報の改ざん・削除 | 業務データや顧客情報の意図的な書き換え・消去 |
| 不正な売買 | 競合他社や第三者への機密情報・個人情報の提供・売却 |
4.不正競争防止法|営業秘密の漏洩はどう裁かれるか
営業秘密の漏洩は主に「不正競争防止法」によって裁かれます。この法律は、企業が保有する「営業秘密」の不正な取得・使用・開示を禁じており、違反した場合は民事上の差止請求・損害賠償請求や刑事罰が科せられます。
⚠️ よくある落とし穴
「社外秘と書いてあれば大丈夫」と思われがちですが、実態として秘密管理措置が実効性を失い「形骸化」したともいいうる状況では、適切な秘密管理措置とは言えません。例えば「社外秘」と書かれたファイルが誰でも自由にアクセスできる共有フォルダに置かれていた場合などは「秘密管理性なし」として、法的な保護が受けられなくなる可能性があります。ラベルだけでなく、実態のある管理体制が不可欠です。
5.なぜ起こる?「不正のトライアングル」で理解する
内部不正がなぜ起こるのかを理解するうえで、犯罪学の「不正のトライアングル」という考え方が役立ちます。これは、アメリカの犯罪学者ドナルド・クレッシーが提唱したもので、次の3つの要素が揃ったときに不正行為が起きやすくなると説明しています。
| 要素 | 意味 | 具体例 |
|---|---|---|
| 動機 | 不正を行う理由 | 給与への不満、転職先へのアピール、会社への不満・恨み |
| 機会 | 不正を行える環境 | アクセス権限の過剰付与、ログ未監視、クラウド・USBの使用制限なし |
| 正当化 | 不正を正当化する心理 | 「自分が作ったデータだから持ち出して当然」「会社が悪い」 |
企業が対策として最もコントロールしやすいのは「機会」の排除です。動機や正当化は個人の内面に関わるため見えづらく、直接的に制御しにくい部分がありますが、アクセス制御やログ監視といった「そもそも機会を与えない」「やろうとしてもできない環境」を作ることが肝心です。
6.今すぐ取り組める!内部不正対策の3層アプローチ
内部不正対策は「ひとつの切り札」で解決するものではありません。技術・管理・人の3つの層を組み合わせた多層防御が最も効果的です。
基本の考え方
見せすぎない:アクセス権限の最小化
持ち出させない:外部送信・USB・個人クラウドの制御
気づけるようにする:ログ取得と定期レビュー
ルール・教育・技術を組み合わせる
誓約書や研修だけでは不十分
システムやツールの導入だけでは防げない
現場が守れる運用に落とし込むことが重要

① 人的対策——「やろうとは思わない」意識を育てる
最も根本的な対策が「人」への投資です。教育によって、従業員一人ひとりがセキュリティの重要性を理解し、内部不正をしようという気持ちを持たせない組織風土を育てます
- 定期的なセキュリティ研修の実施:最新の手口や事例を学ぶ機会を継続的に設ける。
- コンプライアンス教育:「なぜやってはいけないのか」倫理的・法的観点から理解させる。
- 入社・退職時の誓約書取得:情報の取り扱いについて書面で合意を確認。
② 管理的対策——「知らなかった」を排除するルール整備
セキュリティ対策は技術的対策にフォーカスされがちですが、技術的対策だけでは手口が多様化した際に対応できません。その都度、機器の導入やソフトウェアの購入など投資を行うわけにもいかないからです。ゆえに、形骸化しない実効性のあるルール・体制を整備することが不可欠です。
- セキュリティポリシー・規程の整備と周知:「やってはいけないこと」を明文化し、全従業員へ徹底。
- 内部通報制度の設置:不正の兆候を早期に発見できる体制。匿名性の確保が重要。
- 定期的なセキュリティ監査:外部の目を入れることで内部のなれ合いを防止。
- 重要情報の取り扱いマニュアルの整備:顧客情報・機密情報の扱い方を明確に定義。
③ 技術的対策——「やりたくてもできない」仕組みをつくる
内部不正対策の技術的な要点は、個別のツールを導入することではなく、次の3つの状態をつくることです。
第1に、見せすぎないことです。
業務に必要のない情報(顧客情報、技術・ノウハウに関する情報、契約情報など)にアクセスできる状態は、それ自体がリスクになります。まずはアクセス権限を棚卸しし、必要最小限に絞ることが基本です。
第2に、持ち出しにくくすることです。
個人メール、個人クラウド、USBメモリ、スマートフォン撮影など、情報の持ち出し経路を把握し、自社の実情に合わせて制限します。
第3に、後から確認できる状態をつくることです。
誰が、いつ、どの情報にアクセスしたのかをログとして残し、定期的に確認できる状態にしておくことで不審な操作の早期発見や追跡につながります。
重要なのは、すべてを一度に完璧に行うことではありません。まずは重要情報と退職者アカウント、過剰なアクセス権限から優先的に見直すことが現実的です。
7.これまでにセキュビットに寄せられたご相談ケース(一例)
Q. 内部不正対策の優先順位はどの程度に位置づければ良いですか?
A. 「内部不正」はIPA 10大脅威に11年連続ランクインしており優先度の高いテーマです。「社員を信頼しているから大丈夫」という意識が強い会社ほど、対策が後手になるケースや、被害があってから初めてご相談をいただくケースもありました。被害は金銭的損害にとどまらず、信頼の失墜、顧客・取引先の離反による売上減少、競合他社への技術・営業秘密の流出による競争力低下など多岐にわたるため、まずは第三者視点からの現状分析をおすすめしています。
Q. 退職した社員のアカウントをそのままにしてきました/年度末に一括処理してきました
A. 多くのシステムでは自動的に無効化されません。退職後も引き続きアカウントが生きていると、いつインシデントが発生するかわからず、実際に発覚が遅れたケースもありました。また担当者が忙しい、人員が足りないといった理由で年度末に一斉に処理しているといったケースもありました。退職手続きにアカウントの無効化を必ず含めるチェックリストを作成し、部署間の連携を徹底するなどルールの整備、運用にのりやすいルールの見直しが大切です。
Q. 元社員とは退職時に不正を行わないよう誓約書を締結しています。これで抑止になりますか?
A. 誓約書があることで一定の抑止にはなるかもしれませんが、誓約書だけでは、不正が行える機会は残ったままです。「そもそも機会を与えない」「やろうとしてもできない環境」を作ることが大切です。内部不正は正規のアカウントを使われるケースも多く、痕跡を見つけることが難しい傾向にあり発覚が遅れるケースも多くあります。
Q. まず何から手をつければいいですか?
A. 最初の一歩は「ルール化」と「アクセス権限の棚卸し」です。あいまいなルール、形骸化しているルールの点検・見直しと、業務に不要なアクセス権を持っている社員がいないかの確認を進めましょう。また理想が大きすぎて、自社の事業活動に大きな制限を与える仕組みになってしまっては、社内からの協力が得られにくく結果的にうまくいきません。最適化する仕組みを考えることをおすすめします。
8.セキュビットが提供する内部不正対策サービス
「何から始めればいいかわからない」「専門的なリソースが社内にない」——そのようなお悩みに応えるのが、セキュビットのサービスです。セキュビットは、セキュリティコンサルティング事業と研修事業を2本柱に、企業のセキュリティ体制強化を包括的に支援しています。
セキュリティコンサルティング
こんな組織に最適
・内部不正対策をどこから始めればいいかわからない
・現状のリスクを第三者の目でチェックしたい
・ISMSやプライバシーマークの取得だけでなく、認証のフレームワークを使って実際に機能する仕組みを作りたい
提供する主なサービス内容:
- 内部不正対策のセキュリティ戦略策定(中長期計画の立案)
- 内部不正対策計画の作成・実行支援(現状分析→対策優先順位付け→実行・運用まで)
- セキュリティガバナンス体制構築(方針・規程・ガイドラインの整備)
- 実務支援、伴走支援
- CSIRT(社内インシデント対応チーム)構築支援
- コンティンジェンシープラン(緊急時対応計画)の策定支援
セキュビットには、流通、食品、金融、製造業、建築・建設、宿泊業・イーコマースなど様々な業界で30社を超える支援実績があります。現場の実務を知る事業会社出身のコンサルタントが、会社ごとの課題や実情にフィットした課題解決を伴走支援します。
まとめ:内部不正対策は「人を疑う」ためではなく「組織を守る」ため
内部不正対策と聞くと、「社員を信頼していないみたいで…」と感じる方もいらっしゃるかもしれません。しかし、誰もが意図せず不正に巻き込まれることを防ぐことは、組織全体を守るための「仕組みづくり」です。
✅ 今日からできる3つのアクション
① アクセス権限を棚卸しし、不要な権限を削除する
② 退職者アカウントの無効化フローをチェックリスト化する
③ 一般論や理想だけでなく、組織の課題や実情に最適化した対策プランを立てる
内部不正対策は「いつか始めよう」では手遅れになる可能性があります。セキュビットは、事業会社出身のコンサルタントが組織の実情(規模・業種・現状、体制・人員)に合わせた最適な内部不正対策をご提案し、伴走支援しています。まずはお気軽にお問い合わせください。
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この記事を書いた人

増村 洋二(Yoji Masumura)
株式会社セキュビット 代表取締役。サイバー犯罪対策からITガバナンスまで、20年以上にわたり情報セキュリティの最前線に従事。LINEの情報セキュリティ室マネジャーや楽天グループのサイバー犯罪対策室長兼情報セキュリティ統括室室長、CCCのセキュリティ統括部長などを経て現職。実務者目線と経営的視座を兼ね備えたコンサルティングを展開。